067『NEW YEARS ROCK FESTIVAL』山口冨士夫 NO SONGS

今年もあと少しの大晦日となった。
明けると新年ということになる。
また、太陽を一周したのだ。
目が回るほど廻っているはずなのに、
何度繰り返し廻っても、
新たなる気持ちになるから不思議である。

たまにはさ、少し大回りしてくんないかな。
なんて想うのだが、そうもいかないらしい。
まったく、ケチくさいったらありゃしない。

なんちゃってね、
そういえば、ひとむかし前、
とてつもなく長く感じた大晦日があった。
あれは確か、太陽を廻り始めて
28回目の時だっただろうか、
内田裕也さんのオフィスから電話がかかってきた。
大晦日から元旦にかけての
『NEW YEARS  ROCK FESTIVAL』
に出演して欲しいという。

業界知らずだったその時の僕は迷わずに受けた。
「いいっスよ、よろしくお願いしまっス!」
年末のイベントに出るなんてスゴいではないか。
これがきっかけで、
いきなりバンドが盛り上がったりしたらどうしましょう?!
なんて、陳腐な妄想を描いたりしていた。

その時のバンドはまだ、『山口冨士夫グループ』。
メンバーはタンブリングスだったのだが、
バンド名が決まっていなかったのである。

「もう、受けちまったのかい?」
冨士夫が穏やかに聞いてきた。
何も解っちゃいない新米マネージャーを
気遣っているかのようだ。

「できればひと言、相談して欲しかったなぁ」
と言われたくらいから、
“好まないのだな”というのが解ってきた。

「断りの連絡をいれるよ」
と言うと、
「まぁ、そう言うなよ」
ということになる。

そんなに言うんなら出てもいいけど、
出演者全てが横並びの条件がしゃくにさわるらしい。

「俺たちゃ裕也ファミリーじゃねぇからな」
と言うのが、その理由らしかった。

「それじゃ、トシ。
ウチは“とっぱらいバンド”だと言ってきてくれ!」

そう言って冨士夫は、深く煙を吸って吐いた。

出演料をその日に貰って餅でも喰おうや!
ってことらしい。
そうすりゃ、正月らしくて気分も良いだろうって。

秋口に、イベントの説明会があった。
当時、裕也さんが所属していた
レコード会社の会議室に出向いたのだ。
楕円形にセットされた会議用のテーブルに、
イベントに出演する総ての関係者が座っていた。

センターに裕也さんが陣取り、
出演するアーティストの関係者がそれを囲む図である。

ひと通りイベントの主旨が説明され、
最後に“出演料は1月末の振り込みになる”
という話の流れであった。

「以上ですが、何かご質問は?」
という議事進行者の一言に反応した。

「すみません、出演料ですが、
ウチは当日払いでお願い致しまっス!」
と、立ち上がって発言したのである。

みんなが一斉にこちらを見た。
空気を読まない新参者を見る目だった。

……少しの間のあと、

「どちらの事務所のかた?」

裕也さんがこちらに向き直った。

「あっ、ウチは、山口冨士夫です」

蝋人形のように固まっていた裕也さんが、
その時、妙な納得をするように揺れたのを思い出す。

結局、めでたくこの要望は通り、
会議の後、主催のスタッフと
当日のギャラ受け渡しの段取りを詰めていた。
振り向くと、数人の他事務所関係者が並んでいる。
トッパライ希望者が降ってわいた瞬間なのであった。

1983年の大晦日、渋谷の西武劇場で
11th/ 1983-1984 「NEW YEAR ROCK FESTIVAL」
が行われた。

出演者は、
RATS&STAR/M-BAND/PJ&COOLRUNNINGS
/近田春夫&ビブラトーンズ/HANG RAIJI/子供ばんど
/ヴァージンVSベイサイド ストリートバンド
/NOTHING PERSONAL/爆風スランプ/アンルイス
/THE ROKKETS/ルースターズ/EX/スポイル
/ジョニー大倉/宇崎竜童/ジョー山中/桑名正博
/アナーキー/葛城ユキ/力也/ビートたけし
/内田裕也&トルーマンカポティRRB with SQUAT
/白竜/COOLS/山口富士夫/BOφWY/TAO
/ポイズンポップ/東京JAP/ハードロックコレクション
/LENZ/暗黒大陸じゃがたら/ゼルダ/44マグナム
/CREATION/ローグ/鈴木賢司/THE.CONX/サービス/PANTA
だった。

パルコ駐車場のクルマの中で、
長い出番待ちに、
大晦日がとてつもなく
長く感じたのを憶えている。
ステージそのものは15分くらいだったので、
なんだか殆どが待ち時間だったのだ。

それでも、ステージ終わりにギャラを受け取り、
渋谷の街に出た。
「餅代もできたし」ってね、
それなりに明るい新年だったのだと想う。

さて、いよいよ、今年もあと僅か。
“よいお年を”と、
“新年明けましておめでとう”
が交錯するタイミングです。

この情報過剰の社会に焦ることなく、
来年こそゆっくりと太陽を廻ってみたいものですね。

それでは、また。
どちら様も、今年はお世話になりました。
そして、来年もまたよろしくお願いいたします。

(2016/大晦日)

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