096『皆殺しのバラードを聴いたことあるかい?』/皆殺しのバラード

初めてのデートは中学の終わりだった。

練馬の農村住宅地育ちなので、
遊び場は新宿の歌舞伎町か、
池袋の北口くらいしか知らない。

都会から転校してきた友達が
そんなとこじゃダサイって、
頼んでもいないのに
デートプランを伝授してきた。

「有楽町で映画を観て、日比谷公園をブラブラするのだよ」

お坊ちゃん笑顔でそう言うのだ。

“ なんじゃ、それ!? ”

って思ったのだが、

「公園の中にあるレストランでオムライスを食べたあとに、
散歩をして“ふっと”手をつないでしまうんだよ」

というクダリが大変に気に入ってしまったのだ。

その日から僕は、
手をつなぐことをだけを考えた。
新しい世界が目の前に、
ヒラヒラとぶら下がっている気分だったのである。

「ところで何の映画を観るんだい?」

「そうだなぁ、『ある愛のうた』じゃ、いかにもだし、
『真夜中のカーボーイ』はホモっぽい」

少し考えたあとに、
この都会育ちの友達は、

「『ソルジャーブルー』なんかいいんじゃない!?」

って、言ってきた。
ネイティブ・アメリカンを題材にした西部劇で、
アメリカの転換点に位置する作品。
「1960年代のベトナム戦争での
ソンミ村事件へのアンチテーゼを掲げた映画」
だとも云われている。

“うぅむ、なんか、いいんじゃないか”

頭が良いっぽい映画だ。
軽薄な自分にはとんと似つかわしくない作品。
彼女がそのギャップに驚いているスキに
手をつないでしまおう。

要は手をつなげれば良いのである。
もはや、それしか考えられなかった。

デートの当日、
彼女とどこで待ち合わせて、
どうやって行ったのか、
残念なことにまったく覚えていない。

記憶のあるところに飛べば、
そこはもう映画館の中だった。
スクリーンの字幕を追うのも
おっくうなもんだなって
思い始めた映画の後半、
突然に場面が殺戮のシーンに変貌した。

ラスト20分の残酷なる大虐殺!
これがこの映画の売りだとは知らなかった。
延々とインディアンたちが北軍に殺されていく。
あまりのショッキングなシーンの連続に身体が凍り付く。

“もう、勘弁してくれ”

そう思ってもしばらく殺戮のシーンは続き、
人生の中で最も長かった20分間は終わった。

映画帰りの場面は記憶の中にある。
電車に乗った僕らは押し黙って座っていた。
もう、日比谷公園もオムライスもない。
思春期にはショックだったのだ。
デートの時にに観るべき映画ではなかった。

電車が石神井公園につく手前で、
やっと彼女がひと言呟いた。

「ああいう映画…好きなの?」

「えっ? あぁ、まぁ」

記念すべき初デートは、
何とも情けない幕切れとなってしまったのだった。

…………………………………………

冨士夫が『皆殺しのバラード』を歌ったとき、
その映画を思い出した。
歌詞を聴いているうちに
『ソルジャーブルー』が想い浮かんだのである。

どのタイミングだったか忘れたが、
何かの拍子に冨士夫と
ネイティブ・アメリカンの話題になった。
ここら辺になると冨士夫は妙に詳しい。

その時の与太話として、
僕は前記したデート話を冨士夫に話して聞かせた。
彼は笑いながら愉しげに聞いていたのだが、
話し終わりに黙って下を向いている。

「どうかした?」

「『ソルジャーブルー』だったわ」

「何が?」

「『皆殺しのバラード』じゃなくて『ソルジャーブルー』だった」

♪あの酔いどれインディアンたちの映画をみたことあるかい?♪

冨士夫は実にみごとに思い違いをしていたのだ。
ラスト20分の大虐殺シーンで、
インディアンたちは皆殺しにされてしまう。
そこを取って冨士夫は
勝手にタイトルをつけてしまったのだった。

間違えられた『皆殺しのバラード』は、
1966年作品のギャング映画である。
インディアンは出てこない。

「どうしようか?」

「『ソルジャーブルー』ってタイトルじゃインパクトねぇしな」

居直る気まんまんの冨士夫は、
このまま行くことに決めていた。
真実を皆殺しにすることにしたのだった。

缶ビールをコップにつぎながら、
上目使いに冨士夫が訊いてくる。

「ところで、その娘とは手をつなげたのかぃ?」

「いや、それっきりだよ」

すると、ぐぐっと一杯あおった調子で、
冨士夫は大真面目に言った。

「ばっかだなぁ、20分間の虐殺シーンの時に、
優しく彼女の手を握ってやれば良かったのに」

“ そうか … ”

なんて、ホントに今さらながら、
ちょっぴり悔しい想いが横切ったのである。

(1970年〜90年)

PS/

ところで、
冨士夫の映画『皆殺しのバラード』。
毎年どこかで上映していただき、
大変にありがたき次第です。

この映像は、皆さんご存知の通り
晩年の冨士夫をまとめた作品なのですが、
その他にも当然として
TUMBLINGS、TEARDROPS時代を通して、
『よもヤバ時代』の映像も
たくさん保存してあります。

「ステージは記録しておくように」

が、冨士夫のモットーでしたから、
記録的な意味合も含めて残っているのです。

そして、交流したミュージシャンたちとの
貴重なるシーンを捉えた映像も存在します。
その中でも、
冨士夫の音楽活動の分岐点となったのは、
やはり、シーナ&ロケッツだったでしょう。

それまで、意固地なほどに自らのシーンに
こだわっていた冨士夫が、
鮎川誠さんの誘いがきっかけで、
雪解けのように他のミュージシャンとの
交流も始めました。

そのヘソとなるのが、
1986年の1月31日と2月1日の2日間。
渋谷のライブインで行われた
シーナ&ロケッツのステージに
冨士夫がゲスト参加したシーンです。

そして、そのリターンとして、
同年5月に同じライブインで行われた、
冨士夫単独のライブでは、
逆に鮎川さんをゲストに迎え、
仲良しだったチコ・ヒゲと共に
圧巻のステージを作り出しています。

この度はこの瞬間を切り取り、
未公開秘蔵フィルムとして上映し、
冨士夫ゆかりのミュージシャンと共に、
一夜限りのスペシャルライブを行おうと思います。

現在、出演が決定しているのは、
鮎川誠さんをはじめ、
THE PRIVATES、 花田裕之さん、
チコヒゲの皆さん。

特にチコヒゲは、
実に5年振りのステージ。
季節の変わり目の度にチョイ呑みをして、
復活の説得をした結果でもあります。

下記はイベントの内容となります。
ジョン・レノンの命日としてご記憶下さい。

【 山口冨士夫とよもヤバスペシャルナイト 】

12/8(金)下北沢GARDEN
Open:18:30/Start:19:00
前売 ¥4500(+1D) /当日¥5000(+1D)

【ライブ出演】

鮎川誠/THE PRIVATES/チコヒゲ/花田裕之 etc.

【フイルム上映/未公開秘蔵映像】

『1986年1月、SHEENA & THE ROKKETS with 山口冨士夫』ライブ
『1986年5月/ 山口冨士夫 &鮎川誠withチコヒゲ リハーサル』
『1997年10月/福生UZU SHEENA & THE ROKKETS(山口冨士夫飛び入りシーン)』etc.

【チケット発売】

シーナ&ロケッツ オフィシャルチケットセンター受付URL:http://sheena.cc/ticket
10/15(日)12:00〜

プレイガイド一般発売
10/15(日)10:00〜
チケットぴあ (Pコード:347-800)
ローソンチケット (Lコード:70865)
イープラス受付URL:
http://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002241020P0030001

 

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