101『延原達治/ザ・プライベーツ■その2』The Privates 「 Drive All Night 」 PV MV

「俺たちもレコーディングやってるから来いよ」

このとき、TEARDROPSは
『らくガキ』のレコーディングに入っていた。
そこに、冨士夫に誘われて
ブルースハープを持った
延原達治が勇んで現れるのだ。

「俺も若かったからね、
カァー!っていう勢いでさ、
凄い吹き方をしたと思うんだ。
そしたら冨士夫さんが

“ そう吹くのか ”
とか言いながらね、

“ 俺はこう吹いたんだけど ”
とかいうテイクを聴かされた。

“ な る ほ ど! ”

って感じだったのを憶えてるよ。
それでも、冨士夫さんは

“ 良いタッチしてんじゃねぇかよ ”

って、言ってくれてたけど、
全然レベルが違ったよね(笑)」

どんと(BO GAMBOS)と
仲が良かったノブちゃんは、
同世代のどんとが、
冨士夫とコラボしていく様を
何気に意識していたのかも知れない。

「この頃だったと思うんだけど、
どんとと一緒にTEARDROPSの
ステージに上がっている
写真とかがあるんだよね。
確か”I Wanna Be Your Man”
とか演った気がする」

その冨士夫に対する意識は、
すぐにリアルなシーンとなる。
東芝EMIが掲げたお祭り
『ロックが生まれた日』で、
冨士夫と延原達治が
ユニットを組むこととなったのだ。

「『ひまわり(ユニット名)』からなんだ、
冨士夫さんと本当につながったのはさ。
曲作りの前に3日間くらい
お互いの話をしたのを憶えている。
ながーいこれまでの物語もあるけど、
こんな曲が好きなんだとか、
こんな感じの曲をやりたいんだ
とか言う話が主だったな。
なんか、そんなのを延々と
話したりするのが愉しかった。
その後も冨士夫さんとは、
会う度にそういう話になったって気がする。
けっこうお互いに曲作りに関しては
シリアスだったからね。
まずは、会う度にそこから始めるんだよ」

その中で、冨士夫は、
『草臥れて』を弾き語る。
村八分の『草臥れて』の音源が
まだ世に出る前だったから、
とても印象深かったのだとか。

「いろいろと教えてくれるわけさ、
ギターの弾き方とかもね。

“そうじゃねぇんだよ、
こういうときはもっとためてさ”

なんてね、そんな感じ。
本当に丁寧に付き合って
もらった気がするよ。
俺には冨士夫さんに
大切に扱ってもらったという
想いがあるんだよね。
それも繊細にね。
いま想えば『ひまわり』っていう
ユニットがあればこそだよね。
あれで、冨士夫さんと
グッと近づくことができたんだよ」

『ロックが生まれた日』は、
東芝EMIの創立30周年記念イベント。
大阪城野音と東京日比谷野音で
各1公演ずつ行われた。

しかし、すんなりと話が
進まないところが、
いかにも『よもヤバ話』なのである。

案の定、日比谷野音で行われた当日の、
リハ時間になっても
冨士夫は現れなかった。
家に電話を入れてもつながらない。
嫌な予感が脳裏を走る。

「そう、そう。
いつまで待っても冨士夫さんが来ないんだ。
すると、リハが終わるころに、
良さんやカズさんに引きずられて、
ヘロヘロになった冨士夫さんが
完全にのびた状態で現れた。
それで、楽屋に入っても
動けないでいるんだよ。
どうしたのかと想ったらさ、
やっとのことでコチラに寄って来て、

“ノブ、ごめん、
ラリッってるワケじゃねぇんだ”って。

“テンカンの薬を飲んだら
のびちゃったんだ。
意識はしっかりしてるから安心してくれ”

そう耳打ちしてきたんだよね」

余談だが、冨士夫は
テンカンの持病があった。
これはやっかいな病気で、
いつ発作が起きるかわからない。
たいがいは部屋で起こることが多かったが、
一度は京都の磔々のステージで起きた。
その時は、アンコールの最中に倒れ、
救急車で運ばれる騒ぎとなったのだ。

結局、日比谷野音での『ひまわり』は、
(『ひまわり』は『おまわり』のブラック)
ぶっつけ本番で行われた。

「けっこう、上手くいったと思うよ。
ってより、俺たち自身が楽しめたね。
そのユニットが終わってからも、
何かと呼んでくれるんで、
チョイチョイ冨士夫さん家に行ってた。
だけど、冨士夫さんが逗子に
引っ越してからのほうが
多かったかも知れない」

TEARDROPSが休止してからの話である。
冨士夫は逗子で暮らしながら、
ソロで音楽活動を続けていた。

「“これからはヒデと一緒にやるから”
なんて呼ばれて行ったら、
外道のヒデさん(加納秀人)と
部屋の中でギターを弾いている
冨士夫さんがいた。

“むかしはさ、
西の村八分、東の外道、
なんて呼ばれてたんだぜ”

なんて言いながら、
冨士夫さんが愉しそうに笑ってるんだ。

そのうち、“ちょっと出かけようぜ”って、
森戸海岸にあるオアシスって海の家に
場所を移してギターを弾いてたんだ。
あのころの冨士夫さんは、
曲を作るとかじゃなく、
もう崩しに入ってたからさ、
循環コードだけ決めると、
延々とそれを繰り返し弾きながら、
想い付いた言葉を乗せていくというやり方でさ、
それについていけなくなった加納さんが、

“俺、冨士夫みたいにはできないから”

って、帰っちゃった(笑)。

その代わりに、オアシスにいた
ヒッピー系の兄さんなんかが
“おっ、冨士夫ちゃんがいる”
なんて言いながらギターを持って、
入ってこようとするんだよね。
すると、冨士夫さんが

“お前さぁ、もうちょっと弾けるようになってから入ってきてくれるかなぁ”

なんて皮肉を言いながらも
愉しそうにセッションしているあの感じ、
わかるでしょ!?
そんな瞬間が俺の中に残ってるんだ。

身体がギターを弾いている恰好のまま
固まっている冨士夫さんが、
そのまま寝ているかと思っていたら、

“ロンウッドがよ、足の骨を折っただろ、いよいよ俺の番がやってきたな”

なんてワケのわかんないことを言う。
それで、また寝ちまったみたいだったから、
何の気なしにギターを弾いてたら、

“ノブよう、ちょっとギターが弾けるようになったからって、大事なことを忘れるなよ”
なんて、言うんだよ。

「あっ!」なんて思うよね。
寝てんじゃないんかい!?なんてさ。

冨士夫さんて、そんな感じだったでしょ!?
レコードもかけながら寝ちゃったりするから、
こっちも手持ちぶたさになって、
そこらにあったギターをかき鳴らすと

“誰だ!?ギター弾いてやがるのは?”

なんて言いながら目を開けるんだ。
寝てても耳は起きてるんだよね、

“なんだ、ノブか”
って確かめたあとに

“良いギター弾くようになってきたな”

なんて嬉しいことを言ってくれたりする。
その後に“下手だけどな”って
ブラックを混ぜることも
忘れないんだけどね(笑)」

そんな、別になんてことはない時間が、
ノブちゃんの心に残っているという。
何を作っているわけでもない。
ただ一緒に延々とギターを弾いているだけ。
そんな時間を今も思い出す。

「冨士夫さんと会った時間や、
過ごした物事は、
俺のなかじゃすべてが
太字で書く話なんだよね。
どれも鮮明に残っている。

俺にとっては一緒に曲を作ったり、
あんなに音を出したのは、
プライベーツ以外では
冨士夫さんだけだったんだ。
俺はガキだったし幼稚だったのに、
冨士夫さんは一人前に扱ってくれて
大切に思ってくれていた。
それを感じてたんだよね。
それは、やっぱり『ひまわり』が
あったからだと思う。
俺は生意気だったからさ、
遠慮なく冨士夫さんに
言いたい事をぶつけてたんだ。
すると、その答えはコレだよって、
全てに応えてくれたような気がする。

あるとき、逗子の冨士夫さん家でさ、
一晩中スッタモンダしているような
ヘヴィーな場にたまたま居てね、

朝方になって

“ノブ、ちょっと散歩に行かねぇか”

って冨士夫さんに誘われて、
丘の上に公園があったでしょ、
あそこに行くんだよね。
そこでもやっぱり
一緒にギターを弾きながら、
会話をするんだけどさ、
そのとき、冨士夫さんが言うんだ。

“ノブなんかは音楽に対する情熱が、たった今でも燃え盛ってるんだろ。俺なんかはさ、その情熱が消えていくのが怖くってさ、よく此処に来るんだ”って。

その丘の上からは、
海や港の景色が眼下に見えるんだ。
そして、その景色を観ながら

“『ドック・オブ・ザ・ベイ』を歌うんだ”って(笑)。

冨士夫さん、真顔で言うんだよね。
ホント、ドラマチックだよね。
そんなこと言える人、
俺は冨士夫さん意外に知らない(笑)」

そんな想いの残るシーンが
幾つもあったという。

晩年に「曲を作るぜ」って、
冨士夫がノブちゃんに
宣言したときも、
(宣言するのも可笑しいが)

「綺麗な曲を作ってねって頼んだんだ」
とか。

「A面になるカッコイイ曲は
もちろん大好きだよ。
ノリノリのビートがきいたやつ。
だけど、B面のさ、
車のバックシートでゆったりと
聴くような曲も聴きたいなぁって、
冨士夫さんにリクエストしたんだ。

そしたら冨士夫さんは、
“ 綺麗な歌かぁ ”って、
しばし考えててさ、

“それじゃ、タゴールだな”って、
言われたんだけど、
俺、タゴールを知らなかったからさ、
何がなんだかわかんないわけ。

そしたら
“ 何だ、ノブ、タゴールも知らないのか?!”

ってビックリされて、
タゴールの詩集を貸してくれたんだ。

“ ためになると思うから読んでみな ”って。

それを読み終えて
“ 冨士夫さん、ありがとう ”
って返しにいったらさ、

“それはお前にやったんだから持っててくれよ”
って、意外と気前良いんだよね。

服なんかもさ、
“コレ、ノブのほうが似合うんじゃねぇのか?”
って、やたらとくれたがるんだ。

だからアレコレともらったりしてたらさ、
あるとき俺の靴を見て、

“何でノブが俺の靴を履いてるんだ”
って。

“コレ、冨士夫さんがくれたんじゃん”
って言ったら、

“やったんだっけ!?そうか、探してたんだよ”
だって(笑)。

そんなエピソードも忘れられない」

冨士夫と最後に音を出したのはいつ?
そうノブちゃんに訊いてみた。

「冨士夫さんと最後に
音を出したのは、2011年の夏。
冨士夫さんが『夏の魔物』
(フェスティバル)に
出演するために青森に行った時に、
偶然にも俺も仙台に居たんだ。

その情報が冨士夫さんにも入ってたらしくて、

“ノブ、仙台に居るんだろ?俺、いま、バードランドにいるんだ”
って、仙台にあるライブハウスから電話がきたんだ。

急いで行ってみたらさ、
冨士夫さんの他に誰も居なくて、
カラのライブハウスで
冨士夫さんが音を出してる。

そこで冨士夫さんと、
延々と『ギミー・シェルター』
を演ったのが最後。

あれが最後とは想わなかったけど、
あの時は「じゃあな」って、
別れのハグをしたんだ。

いつもはそんなことしないよ。
あっさりと「またね」って別れる。

その時さ、冨士夫さんの身体の細さに
少しばかりとまどったのを憶えている。
“こんなに細くなっちゃって”
呆然とそう想ったんだよね」

そう言って、ノブちゃんは
残っていた珈琲を飲み干して、
何本目かの煙草に火を付けた。

「最後に声を聞けたのは、
倒れる寸前にかかってきた電話。

“ノブ、JIROKICHIあたりで一緒にライヴをやらねぇか”って。

それも、
“ちゃんとリハをやってな”
と言うオマケ付き。

最後までライヴのことを
考えてた人だったと想うよ。

冨士夫さんとライヴをやるのって、
やっぱり凄い遠心力でさ、
好きだからってのが前提に
言わしてもらえば、
良いもワルいも含めて
もの凄い渦の中に入って行くこと。

だから、数カ月、
その遠心力の中にいる。
そんな覚悟も必要なんだよね。

それはそれで愉しくも
大変な時間なんだけどね」

…………………………………

12月8日のイベントのための
リハーサルが始まっている。

「ヒゲさん、全然イケてるよ!もう何ステージでも叩けるんじゃない!?」

スタジオのドアを開くと、
ノブちゃんの明るい声が聞こえてきた。

コチラに気がついたのか、

「ちょっと休憩」

とか言っちゃって、
何曲も叩き続けていたのか、
汗だくになって火照った顔を
タオルで拭きながら、
チコヒゲが笑っている。

ヒゲが抜け、
プライベーツだけの演奏が始まった。

ノブちゃんのリードで演奏が始まり、
部屋鳴りがするようなビートが
渦になって押し寄せてきた。

「プライベーツのビジョンは何?」

そのビートに揺れながら、
先日、喫茶店でノブちゃんに
そう訊いたことを思い出していた。

「ビジョンとかじゃないんだけどさ」

そう言って、その時のノブちゃんは
少し間をあけると、
まるで自分に言い聞かせるかのように
一気に言葉を続けた。

「俺は極めたいんだよね。
このバンド、プライベーツをさ。
どこまで行けるのか確かめたいんだ。
バンドをやる奴らは
誰だってそうだと想うけど、
音を出す時のワクワク感がある。
あのガキだった頃の
ワクワクした気持ちを
持ち続けていきたいんだよ。
それは、音を極めていくこと。
そう思うんだよね。
それが、俺のやりたいことなんだ」

スタジオの中でバンドの音が、
渦を巻くようにグルーヴしていく。

その心地良い振動に、
僕自身も10代の頃の
ワクワクしたあの感じに
フラッシュバックさせられた。

理屈抜きの心地よい揺れに身を任せ、
途方もない気持ちになったとき、
僕の頭の中で、
いくもの線がつながった。

そうか、冨士夫が大切にしていたのは
こんな 延原達治の“気持ち”だったのだ。

そして、それをわかったうえで、
ノブちゃんは、
無意識に冨士夫の心を
つなげているのかも知れない、と。

(1989年〜今)

 

※今度の金曜です。

【山口冨士夫とよもヤバ・スペシャルナイト】
一夜限りのスペシャルライブ&未公開秘蔵フィルム上映

鮎川誠、チコヒゲ、花田裕之、ザ・プライベーツ等豪華ゲスト陣をライブステージに迎え、ライブ&秘蔵映像上映イベントを12/8(金)下北沢GARDENにて開催致します。
フィルム上映は、1986年に渋谷ライブイン等で開催された『シーナ&ザ・ロケッツwith 山口冨士夫』の完全未公開秘蔵ライブ映像、他を予定。そこに、一夜限りのスペシャルライブとして、鮎川誠、ザ・プライベーツ等による冨士夫のカバーを含む、よもヤバステージが行われます。

12/8(金)下北沢GARDEN
Open:18:30/Start:19:00
前売 ¥4500(+1D) /当日¥5000(+1D)

【ライブ出演】
鮎川誠/THE PRIVATES/チコヒゲ/花田裕之

【フイルム上映/未公開秘蔵映像】
『1986年1月、SHEENA & THE ROKKETS with 山口冨士夫』ライブ
『1986年5月/ 山口冨士夫 &鮎川誠withチコヒゲ リハーサル』
『1997年10月/福生UZU SHEENA & THE ROKKETS(山口冨士夫飛び入りシーン)』

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シーナ&ロケッツチケットセンター
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映像の一部は12/8下北沢ガーデン
『山口冨士夫とよもヤバスペシャルナイト』
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