[ニコニコ雑記] 追悼 Brian Wilson

こんにちは、店長の野呂です。

先日6/11にBrian Wilsonが亡くなりました。
Sly Stoneが亡くなったという衝撃からわずか2日後のことで、度重なるスターの訃報に胸を痛めています。

ブライアンを語る上で最も重要なアルバムはやはりPet Soundsでしょう。

このアルバムは世界的名盤として最もよく知られているビーチ・ボーイズのアルバムですが、実質的にはブライアン・ウィルソンのソロアルバムと言っても過言ではありません。
ブライアンが全てのパートの譜面を書き、プロの作詞家に曲のイメージを伝え、レコーディング中は腕利きのミュージシャン達へのディレクションも行いました。
(ディレクションの様子は制作過程の音声が残されており、ブライアンがドラムインのタイミングやフレーズに関して指導している様子など確認できます。)

レコーディングは一部パートを除いてビーチ・ボーイズのメンバーは演奏を行なっておらず、30人を超える“レッキングクルー”の面々が参加しています。
ドラムのハル・ブレイン、モータウンでの活躍でも知られているベースのキャロル・ケイが有名ですが、他も錚々たる顔ぶれです。
参加人数が多いということで楽器の数も多彩です。
エレキベースとアップライトベースが同時に鳴らされ、バズ・オルガン、ハープシコード、アコーディオン、ウクレレ、ティンパニ、フルート、サックス、ストリングスに加え、テルミンや自転車のベル、コカコーラの空き缶を叩いた音など、あらゆる音色が複雑に絡み合っています。

一説によると、彼らは譜面を見て当初「一体何をやらされるんだ」と思ったと言います。
それ程までに曲が難解で「本当にこれが曲として成立するのか」と感じたと後に語っています。

実際にこのアルバムの収録曲は、唐突な転調、曲中でのテンポやビートの多彩な変化、ベースがコードの構成音から外れた音を小節の頭で演奏する複雑な和声など、様々な技巧が凝らされています。
それにも関わらず全ての曲がいずれも調和がとれていて親しみやすく、一切の不自然さを感じさせない美しい楽曲に仕上がっていることに驚きます。

ちなみにビーチ・ボーイズのメンバーはバッキングボーカル(曲によってはリードボーカル)で参加しており、ある箇所では8つのコーラスハーモニーが重なるなど、コラースワークにおいても恐ろしく複雑です。
(ペットサウンズ制作時の膨大なセッションデータがまとまったBOXセットが発売されているのですが、その中にはブライアンが鬼の様な厳しさでメンバーへボーカルを指導しているトラックもあります。)

コンセプチュアルなアルバムという文脈で、ビートルズの67年のアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』にも多大な影響を与えたと言われていますね。

私は”無垢な心の喪失”や”自立への恐怖”がこのアルバムの大きなコンセプトだと感じています。そのサウンドや歌声からはブライアンの繊細さが直接心に染み入ってくるようで、時には自分が参ってしまうので、気軽に聴くことは躊躇ってしまうような作品です。

オリジナルはモノラル盤となっており、このあたりはブライアンの右耳が部分的な難聴を抱えていたことや、フィルスペクター的ウォールオブサウンドを指向した影響でしょうか。
これだけの音数があり、当時の録音機器にはトラック数の制約があったにも関わらず渾然一体の音の塊として美しく聴こえるのは、アレンジ・演奏・マイキング・レコーディング手順・ミックス、どこを切り取っても神業です。

そしてモノラル盤はもちろん素晴らしいのですが、もしもステレオ盤を聴いたことがない方には2012年に結成50周年を記念して発売されたリマスター盤をお勧めします。
くっきりとした音像が感じられ、モノラル盤のウォールオブサウンドとは全く異なる趣となっており、各パートにおいて新しい発見を楽しむことができるでしょう。

これまで数百回は聴いたであろうこのアルバムを、私はこの先もずっと聴き続けるでしょう。
たくさんの素晴らしい音楽を残してくれたことに感謝申し上げます。

Brian Wilsonよ、安らかに。

今回はこの辺で。

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