051/番外編 『 SO WHAT /こぼれ話』ジョニー・サンダース/忌野清志郎/他、様々な関係者の方々、ありがとうございました。無事に冨士夫の誕生パーティは終了いたしました。

『仕事帰りのOLが疲れた身体をもてあましながら
 マンションに入って行く。
 そして、鍵を開け、部屋に入り、灯りをつけるんだ。
 すると、このままでいいのか?
 という、あらゆる衝動が沸き起こってくる、
 ナンてのは、どう?』

そう言いながら冨士夫は、
冷や酒の入ったガラスコップをクィッ!と空けた。
この頃のの冨士夫は物語を創るのが好きだった。
そこから曲作りのためのシーンを描いていたのだ。

「それ、聴いてみたいな」
 …そう言うと、

冨士夫はコチラに向き直り、にたりと笑う。
そして、よろっと立ち上がると
少し先にあるカセットのスイッチを押した。

すると、いきなり歪んだギターの爆音がそこから飛び出した。
ハードギターの鳴りがリフレインする。
それは、ギター1本の音だけなのに、
まるで分厚い固まりのように耳をつんざくのだ。

♪ 死んでくれーっ!♪

その固まりの間をぬうように冨士夫が叫ぶ。

♪たのむから♪
♪死んでくれーっ!♪

歌詞はそれだけだ。
へばりつくようなハードギターが
果てしなく続いていく。

「コレもいいね!」
思わずコチラもでかい声になる。

「だろっ!?」
そう言われて、
冨士夫もまんざらでもなさそうだ。
おでこをかきながら、得意げにまた笑っている。

…………………………………………

熱海の海岸に向かう真鶴道路。
その海岸線に沿った大きなカーブに
真っ白なリゾートマンションが建っている。
2007年の早春、
知り合いの好意で冨士夫はその一室を借りていた。

部屋に入ってみると楽器とともに、
あらゆるメモ用紙が散乱している。
冨士夫は、ここで歌を書いているのだ。
長〜い間、出し惜しみをしている
念願の新曲をまとめようと勇んでいるのだった。

とくに約束事があるわけではなかったが、
この時点で1992年の『ATMOSPHERE』以来、
15年ものあいだ新録を出していない。
いい加減、出さなきゃイケナイのである。

それと同時進行で1990年に宝島( JICC出版 )から出した
『SO WHAT』の新装改訂版を、
17年振りに再発売しようと目論んでいた。
15年振りのアルバムのパブリシティ代わりに、
17年振りの『SO WHAT』がこの世に流れれば、
すっかり真面目になって平和に暮らしている
冨士夫シンパのマイノリティたちが、
うっかりと、また、巷に現れるような気がしたのだ。

それならと、曲作りと平行して、
新たなる『語り下ろし』の作業も始めた。

「で? 何を話せばいいんだい?」

ギターを置いて、ハイライトに煙りながら
冨士夫が聞いてきた。

「TEARDROPSの後期から始めたいんだ」
そう言いながら、ヴォイスレコーダーをONにする。

『SO WHAT』では、
TEARDROPSの途中までで
途切れてしまっているので、
その後の時間をつなげたかったのである。

すると、本当に偶然だったのだが、
なんとなくついていたテレビから
鈴木ヒロミツ氏(モップス)の訃報が流れた。
冨士夫にとってはGS時代の先輩である。
同じ事務所だったときに
ファンの女の子絡みで何度も利用された話は、
今では、冨士夫がする面白話の定番でもある。

「ヒロミツ……死んじまったか……」

別段、驚くでもなくたんたんとしていたが、
たぶん、心の中は随分とざわめいていたのだろう。
ここからの冨士夫の話は、
ずっとダイナマイツ時代の風景になった。
そして、それらの話はさらに子供の頃へと
逆流していったのである。

このときの冨士夫の口数はあまり多くなく、
内容もアチコチに飛んでしまう感じだった。
このままでは、とうてい思惑通りにいきそうにない。
そう思い、TEARDROPSの後期から
つなげるというプランは断念することにした。
その代わり、バラバラではあるが、
本音で話しているシーンを拾いあげ、
カテゴリーごとに終章でまとめることとしたのである。

まる3日間、冨士夫の声を拾った。
それは、冨士夫が音を出す合間に。
道路の向かい側にある鰻屋のテーブルで。
まだ、肌寒い海風が舞うベランダで。
気晴らしにドライヴする真鶴道路で。
冨士夫の意に添っての言葉録りだった。

そして、曲作りも語りもひと区切りおくことにして、
4日目の朝に熱海の海岸を散歩したのだ。

「これが、貫一お宮か」
なんてことを言いながら、
ベタな像の横から
砂浜へ下りる階段に座ったのを憶えている。

季節は早春ではあったが、
風が吹くとまだまだ芯に響く肌寒さがあった。

「オレはさ、ぎりぎりのところでやりたいんだ。
例えば、カッコイイとぶち壊しの狭間とかだね」

そう言って冨士夫は海のほうに目をやった。
朝もやの中で、海と空の境目があいまいに映っている。

「だってさ、期待通りのことをそのままやったって、
何にも面白くもねぇだろ? 
ぎりぎりのところでしか味わえない究極のやつさ。
それがオレがいま想っている音楽かな?!」

そう言って、冨士夫は目をつぶった。
僕はそのまま黙って海岸を見ていた。
だんだんと暖かくなり、
人が浜辺に出て来るのがわかる。
犬を連れて散歩してる人。
日常の中を行き交う老人たち。
子供たちの笑い声で
今日が土曜だということに気がついた。

「今日って、土曜なんだね」

そう言って冨士夫を見ると、
目をつぶったままの冨士夫は
そのまま眠っちまったようだ。
無理もない、3日間ほとんど寝ないで
音楽と戯れていたのだから……。

貫一お宮の像の下で、
石のように眠っている冨士夫がいる。

季節はもうすぐ春……、
なんだか楽しい事ばかりが
想い浮かんでくる陽気に、
僕も思わず目を閉じた……。

(2007年/3月)

PS/
結局、このときの曲作りはいっこうに進まなかった。
おまけに『SO WHAT』も、
以前のままの内容で出版したいと言いだす始末。
徒労に終わるとはこ〜ゆ〜ことなのか……と、
随分と放心したものだが、
そのうちに冨士夫が体調を崩し、
それどころではなくなってしまったのだった。

さて、そのときの『語り下ろし』を、
『SO WHATこぼれ話』と称して簡単な本にしました。
上記のように、
本来は『SO WHAT』の終章にしようと
思ってまとめたものです。
そのとき、冨士夫が思い浮かべた
言葉を起こしただけのランダムな内容ですが、
それだけに、本編にはない
本音の固まりが含まれていると思っています。

2007年の早春の冨士夫。
新しいアルバム作りを想い描き、
これからのビジョンに試行錯誤しているとき。
そこでの『語り下ろし』なのです。

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