125『大阪に行く準備』

先日、goodlovin から配信がきた。

『山口冨士夫 LIVE AT SUM(2CD)12/12リリース ☆限定特典付☆』

というタイトルであるから、
goodlovin のKo発掘担当者が、
新たに発見した音源であるらしい。
(随分と深く掘り進んでいると思われる)

発掘資料によると、

【92年のソロアルバム
『ATMOSPHERE』リリースから約7年、
冨士夫と親しい友人が経営する
大阪のライブバー『SUM』での録音】

とある。

僕は´92年以降の冨士夫を
よくは知らないのだ。
『ATMOSPHERE』で完全に
冨士夫とは切れていたからである。

「大阪かぁ」

そういうわけで、
早々に大阪に出向くことにした。

大阪のライブバー『SUM』を
経営していたという、
冨士夫の旧友に会って、
当時の話を聞かせていただこう
というわけなのである。

大阪に行くのは久し振りだ。

以前は3ヵ月と空けずに、
心斎橋で呑んでいた気もするが、
ココ最近はとんとご無沙汰なのだ。

サラッと、考えても20数年振りである。
(ご無沙汰なんてモンじゃない)
時が経つのが早いにもほどがあるのだ。
伊藤耕風に言えば、
いったい、いつの間に
こんなに太陽の周りを
廻ったんだろう?
ってな感じだろうか?!

思い起こせば、
初めての大阪見参は18歳の時だった。
高専に通っていたので、
受験や就職の心配のない高校3年は、
我が人生の中で最も遊んだ時間なのだ。

そんなお気軽な時間に、
ちょっとした経緯で、
大阪でバイトをすることになった。

内容は、
大阪各地のスーパーを廻って
店頭で売り子をすることだった。
新発売の歯磨き粉を売るのである。

しかし、売り初めたとたんに
関西のカルチャーショックにあった。
大阪人の押しの強さに
圧倒されたのである。

「店内でも売ってるのに、何でわざわざ店頭で売ってるん?」

どこかのオバちゃんが声をかけてきた。

「安いんか?ここで買うと安いんか?」

そのオバちゃんのひと言で、
ザワザワと他のオバちゃんたちも
動物のように寄って来た。

「あの、いや、別にそーゆーわけじゃ…」

って言ってる間に、

「ほな、3つ買うたるワ、4割引きか?!まさか、半額なんか?!」

あっという間に、
メスライオンに囲まれた
肉片になった気分である。

その状況を見かねた
店員が飛び出して来て、

「バイトの兄ちゃんをイジメたらあかんやん。新製品やねん、だから皆さんに紹介してるんですぅ」

そう言って収めてくれた。

普通に売ってる商品を
普通に値切ることにも驚いたが、
あかの他人同士が、
まるで知人のように接する気軽さに
仰天したのである。

今じゃ、日本の東西は大変仲良しだが、
この頃はまだまだ関ヶ原を境にして、
東と西の環境も文化も心持ちも、
全く違っていたような気がする。

バイトの休憩時間に喫茶店に入ると、
関西弁を喋る女の娘が
やけにエキゾチックに感じた。

「あかん」

なんて言葉の響きに、
なんだかとってもグッときて、
いつか関西の娘と付き合って、

「あかん」

なんて、言われてみたいものだ。
とニヤけていると、

「れいこ」

という名前がやたらと耳につく。
大阪人は“ れいこ”だらけなのか?
と思っていたら、

「レイコウ」

のことだった。
アイス珈琲(冷珈琲)で
「レイコウ」なのである。

ヤンキー言葉だったのかも知れないが、
なんだか気に入ったので、
いつか使ってみたいと思ったりしたのだ。

夏休みも明け、
高校3年の他校生が
受験地獄で釜茹でに
されているのを眺めながら、
僕らはディスコに通っていた。

行きつけだったのは、
新宿南口の成人映画館の
斜め向かいのビルの4階にあった、
『GET』というディスコ。

まるで進学塾に通うかのように
真面目に『GET』遊びをし、
帰りは東口にあった
『マンションハウス』という
3階建ての喫茶店で、
イップクしてから帰るのが
日課だったのである。
(同年輩の東京の輩には、懐かしいパターンだろう)

「今日は俺が奢るよ」

大阪のバイト代があったので、
僕としては、
いつにも増して調子がイイ。

その日は4人で連れ立って
1階のBarスペースに入った。
夜はカウンターで酒を呑ませるのだが、
18時前は喫茶扱いになっている。

ボックス席になっている
フカフカのソファに陣取り、
煙草に火をつけ、
ゆったりとしていると、

「ご注文は何にしますか?」

黒のベストに蝶ネクタイ、
僕らより少しだけ先輩風の
ボーイがオーダーをとりに来る。

「何にする?」

“アイス珈琲だったら「レイコウ」と言おう”
そう決めていた。

「奢りだろ? 」

リーゼントのひさしを気にしながら、
タケが訊いてきたので、うなずいた。

「 じゃ、俺、クリームソーダ」

「じゃ、俺も」

「俺もおんなじで」

そう言って、高校生のクセに
ピンカラ兄弟のような
口髭を生やしたシノザキが、
読んでいたマンガを閉じた。

予想外だった。

“レイコウがアイスコーヒーだから、クリームソーダなら”

「ク、クソーダ、 あー、フォー クソダ!」

思わず口から出た。
しかも英語っぽい。

「あん?!★」

ボーイが困ったように、
歪んだ表情で見下げてくる。

「だから、クソダ よっつ、お願い」

「あぁ、!★ ハイ」

わかったのか、わかんないのか、
皆目わからなかったが、
ボーイはターンすると、
さっそうと調理場に
消えて行ったのである。

「大丈夫か?通じたのか?」

あいかわらずマンガを見ながら、
煙草に煙るタケが呟く。

「“クリソ”って言い方もあるよね」

そう言いながら、
アイドル顔のアサミが、
オールバックの髪をなでつけた。

“そうか、そんな言い方もあったのか?”

なんて、一抹の不安が
頭の中をよぎった瞬間、

「お待ちどうさまでした」

さっきのボーイがさっそうと現れたのだ。

それを見たタケが、

「やっぱりな!」

と、煙草の煙を思わず吹いた。

その煙の先には、

満面の笑顔をしたボーイが、
カレーライスを4皿
器用に抱えていたのである。

チャンチャン★

 

(残念ながら実話です)

…………………………………………

いやいや、ホント、申し訳ない。
すっかりとくだらない横道に
話がそれてしまった。

行き当たりばったり書いてるから
こうなっちゃうんだな、
なんて、反省しながら
軌道修正しようと思う。

なんだっけ?
そうだ、大阪のライブバー『SUM』
での録音源の話だった。

冨士夫は録音マニアで、
ライヴはもとより、
練習に関しても
とてもコマメに録っていた。

よく、ライヴ終わりの
帰りのクルマの中で、

「今日録ったやつを聴きながら帰るか」

なんて言うので、
うかつにはサボれないのである。

演奏や曲の感じを聴きながら、
とても愉しそうにしている冨士夫を見ると、
芯から音楽が好きなんだなっと、
よく思ったものだ。

【気心が知れた友人のお店での、
アットホームなライブ】

だというので、
肩の力が抜けた冨士夫の魅力が、
聴こえてくるのだろう。

自宅でくつろぎながら
演奏する冨士夫は特別なのだ。
僕もその雰囲気を音源にして
世間に発表したいと
随分と探したのだが、
ついに見つけることができなかった。

この音源に、
そのギミックがあることを
期待したいと思っている。

「“こだま”で6時間かかりますが、格安チケットで行けます」

goodlovinのKoくんが電話してきた。

「おぉ、そうなの。それじゃ、それで行こう」

なんて、なんかKoくんに
乗せられた感もいなめないが、
それなりに浮き浮きと
している自分がいる。

何よりも、知らない時間の
冨士夫と出会えるのは愉しい。

時間をさかのぼりりながら、
空白の時を描くための
準備をしているところなのである。

(1973年〜現在)

 

 

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