036 『TEARDROPS/関西ツアー』/ヒッチハイク

036 『TEARDROPS/関西ツアー』/ヒッチハイク

1988年当時の手帳を開いてみた。
4月から『TEARDROPS』のLiveが続く。
これまで溜めてたウップン晴らしをしてやるのだ。
やるだけやってダメなら、その時考えよう。
手帳からは、そんな騒ぎが見えている。

4月21日(木)大阪・バーボンハウス
  22日(金)京都・磔磔
  24日(日)名古屋・フレックスホール

手始めに関西に行ってみることにした。
青ちゃんは『ウィスキーズ』で前年に行っているが、
冨士夫にとっては『村八分』以来である。
この時、実に10年近く関西行きを断っていたのだ。
京都の暮らしが長かった冨士夫としては、
高速で西へと移動して行くにつれて、
次第に京都弁が口から出るようになっていった。
“冨士夫はそうなんだな、実に感覚的なんだ”
その変化を見て、そう思ったりした。

『大阪・バーボンハウス』は、梅田の駅前にあった。
リハのために3時くらいに着いたのだが、
すでに店の周りには、それらしきキッズたちがたむろっていた。
クルマを入り口に寄せると、張り紙が見えた。
【山口冨士夫/元・村八分 ティアドロップス】
とでっかく表示してあるのを見て、
冨士夫が吐き捨てるように言った。
「気に入らねぇな、ティアドロップスだけにしてくれ」
関西では桑名さんのバンド(ティアドロップス)が有名だ。
同じ名前を付けてしまったコチラがややこしいのだ、
店としても苦肉の策だったのだろう。

「おい!フジオだ!フジオ!」
店の周りにいたキッズたちが、
クルマを覗き込んで騒ぎ始めた。
冨士夫は、関西ではすでに生きながらの伝説である。
何度も死亡説が流れては消え、
様々な興味本位の噂が淀んでいたのだ。
向こうから走って跳んで来る輩もいる。
あわててクルマを出すことにした。
「とりあえずこの場を離れよう」
と、逃げ出したクルマの後方から
彼らの馬鹿デカイ声が聞こえてきた。
「オッ!練馬ナンバーやん!」
「ほんまや!」
それを合図に、みんなの笑い声がした。
そこか? そこに反応するのか!?
どうでもいいことだが……、少し、ムカついた。

バーボンハウスの店内は意外と広かった。
ただ、天井が低くて音の抜けが悪い。
“これじゃ、客が入ると店の奥の方は、
人の壁で薄っぺらい音になるな”
そう思ったのを覚えている。
開場すると入場する客が途絶えなかった。
案の定、満杯になりそうな勢いだ、人の壁ができる。

『TEARDROPS』は当日券を売り上げるバンドだった。
逆から言えば、前売りは常にそこそこ。
究極の水モノバンドである。
だから、いつも当日の客入りを気にしていた。
そんな、ヒヤヒヤ顔でウロウロしている僕に、
「大丈夫だよ、トシ。黙ってても一杯になるよ、俺が演るんだから」
と、冨士夫が言ってくれる。
そんなやり取りが、やけに懐かしい。

さて、この日のバーボンハウスはというと、
いつの間にか、店内は満員電車のごとくごった返していた。
右端の少し高くなった位置からビデオを構えてみる。
すると、ステージ前の客たちのテンションがやけに高い。
「ウルフルズやん」
誰かがそこら辺を指して言っている。
本当にそこにインディーズ時代の
ウルフルズがいたかどうかは定かではないが、
確かに彼らを中心とした
客周辺からのリアクションが、
ステージのハナっから炸裂した。
“ドッカ〜ン”で、ある。
だから、何の心配もなかった。
音の抜けも何も関係ない。
ここは大阪である。
ラテン系精神民族の集まっている地域なのだ。
客席からのエネルギーにバンドも弾けた。
ゆえに、この日のステージは大成功、
数あるライヴの中でも、忘れがたいものとなった。

翌日は京都だった。
冨士夫にとっては第二の故郷である。
青ちゃんにとっては、少し苦い街といったところか…。
着くなり、腹が減ったので、
冨士夫のナビゲートで木屋町にある珉珉餃子店に行った。
「ここが美味いんだよ」と言う冨士夫に
みんなで相づちを打ったのを覚えている。
そう、みんなで京都の味を楽しんでいた。
しかし、江戸っ子・青ちゃんは、どうも薄味になじめない。
その後に入った蕎麦屋の透き通った汁に
とうとう切れてしまった。
「こんな味がねぇ蕎麦、喰えねぇわ」
と言うなり店を出て行ったのである。
「案外、青ちゃんが村八分を辞めた訳は、
こんなところにあるのかもな」
と、佐瀬がブラックジョークを言い放った。
確かに喰いものに限らず、
京都の雅(みやび)なるカッコ付けは
青ちゃんには合わなそうだ。
青ちゃんにはストレートがいいのだ。
表も裏もない、味はガツンと濃い目の醤油味がいい。
「べらんめえ!」そう啖呵を切ってかぶりを振る感じ。
まぁ、それを蕎麦に向けても仕方ないのだが…。

その点、冨士夫は京都に対して愛着がある。
「トシ、知ってるか?京都も北のほうに行くとな、
“さようなら”という言葉の代わりに
“考えてください”って言うんだ」
と、京都の仕来りを教えてくれたりした。
意外だったので、「ほんとに?」と聞き返す。
「ほんとだよ。俺、いつも言われたもん、
帰り際に“考えてください”って」
と、口をとんがらす冨士夫。
「それって、冨士夫だからじゃないの?」って言うと、
「冗談じゃねぇよ!」って怒ってしまったので、
ついに、この話はここで止まったままになっている。
誰か知っている人がいたら教えてください。

ほんとうに、京都の北のほうでは、
「さようなら」を「考えてください」
と、言ったりするのでしょうか?
(エミリも冨士夫や、しのぶから聞いたことがあると言う。
 だけど、滋賀県の山のほうに行ったときの話じゃないかと…)

さて、それはさておき、京都でのライヴは『磔磔』。
町家造りの独特なる佇まいのライヴハウスである。
ここでもまた、ライヴ表示は【山口冨士夫/元・村八分】。
関西では仕方なかったのかも知れない。
やってるうちに『TEARDROPS』も知られていくだろう。
バンドは怒っていたが、
三ヵ月後に再びここでライヴを行うことが決定していた。
前売りが好調なのだろう。
そして、なにより、その証拠にこの日も満杯だった。
手帳を見ると、280人動員とある。
『磔磔』でこの人数ならぎゅうぎゅうなのだ。
それで、メンバーたちも気を良くしていた。

それはそうと、京都で苦労したのは宿だった。
安い高いはあるのだけれど、
ちょうどいいクラスの宿がない。
初めはギャラもあてにできないと思い、
バックパッカーたちが泊まるような
雑魚寝タイプの宿を利用していた。
それこそ、国際観光都市、京都である。
外国人バックパッカーたちが
魚のように寝ているところを、
僕らは夜中まで呑んでヘベレケになって戻ってくる。
そう、自由とモラルをはき違え、
常識は完全に破壊された状態で宿に帰還した。
それこそ、千鳥足で何人か踏みつけながら、
空いたスペースに寝転ぶ。
当然、いざこざが起きる。
後は知ったこっちゃない。
コッチも泥酔しているのでよく覚えちゃいない。
気がついたら、
“外に停めてあるクルマの中で目が覚めた”
なんてこともあったくらいだ。
「これは無理だわ、全然休めねぇ、
だいいいち、俺たちはバックパッカーじゃねぇし」
っと、メンバーから文句が出る。
国際問題にもなりかねないので、
これっきり、京都での安宿はやめることにしたのである。

その翌日は、京都でゆっくりして名古屋へと移動した。
どのようなきっかけで知り合ったのか全く覚えてないのだが、
名古屋でのブッキングは、
『割礼』という痛そうなバンドのオフィスを率いていた、
“ナンブさん”という方にお願いしていた。
“ロックバンドはストイックでなければならない”
という、ある意味、インディーズでの醍醐味を示してくれた人だ。
自身のバンドのツアーでは、
クルマの中で寝泊まりすることもあり、
「生卵を丸呑みして鋭気を養うんです」
とか、言っていた。
“ロッキーみたいな人だな !?”
漠然とそう思ったのを覚えている。

名古屋での会場は『フレックスホール』。
記録を見ると、250人もの客を動員している。
数字を見ると、最初にしては良いんじゃない!?
と思うのだが、
当日は、やけに焦っていた記憶がある。
半分も埋まらないんじゃない?
客入りの動きに、久々の緊張感が走った。

「少し、会場のキャパが広すぎましたね」
と、しゃがれ声で言うナンブさんの笑顔を思い出す。

その笑顔にほだされ、
僕らは名古屋の街へとくり出した。
ココは関西圏なのか?関東圏なのか?
西と東をつなげる中間地点。
名古屋だけで物事が成立するという、
日本でも珍しい場所なのだ。
言い方を変えれば、ココでウケれば
関東も関西もイケルという都市伝説がある。
いうなれば、マーケティングに適した街。
道幅がやたらと広い街。
赤だしみそが染み込んだ、
見栄っ張りな街なのであった。
僕らは、今回のツアーの最終日を
この名古屋で、しこたま呑んで締めくくった。
「締めに、味噌煮込みうどんはどうですか?」
ナンブさんが誘ってくれたのを覚えている。
「あっ、味噌はもう、いいわ」
冨士夫がやんわりと断っていた。

何はともあれ、『TEARDROPS』最初の
関西ツアーは無事に終了した。

東京に戻り、会う機会があったので、
RCサクセションの当時のマネージャー、
坂田さんに今回のツアー・エピソードをお話した。
「ツアーの基本は宿とメシ。
それさえしっかりしていれば、
あとはどうにでもなるもんだよ」
坂田さんは、いみじくもそう言っていた。

そうか、何事も、寝る処と食いもんは、
はしょおっちゃいけないのだ。
それ以来、肝に命じることにしたのである。

(1988年4月)

PS,  エミリのバンド『DIAMONDS』の、昨年の秋に続く2回目のステージがある。
場所は『4/9(土)クロコダイル』。対バンは、ウイスキーズ時代の青ちゃんの盟友・ジョージが率いる『藻の月』だ。そして、そこに今回はドブロ・ギターを引っさげて、可愛い『chihana』が参戦する。
桜の花吹雪舞う土曜の夜長、冨士夫のホーム、クロコダイルでのよもヤバ話に興じながら、たまには浮き世を忘れて、思いっきり酔っぱらっちゃったりしてみませんか?

4/9(sat) 原宿クロコダイル
● 藻の月 (ジョージ(vo,g) 竹中邦夫(vo,g) ムーン安井(b) 栗田陽輔(ds))
● DIAMONDS(エミリ(vo,g) オス(g) AMI(b) リキ(ds) )
● chihana
Open/18;00   start/19:30 charge/前 ¥2.500   当/¥3.000

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